「夫婦漫才」はテレビ等でたまに見かけるけど、「ドツキ系夫婦漫才」は久しく見ていないような気がします。最近少なくなったような・・・。本当に仲が悪いのか? 本当は仲が良過ぎるのか? 目の前で行われる熱演ぶりを見ていると、いろいろと考えてしまうものですよね。今回はそんな「ドツキ系夫婦漫才」の話。しかし、その、私、こんなに良い話だとは思いもしませんでした。ま、まさか、落語がテーマのドラマを見て、本気で泣くことになるとは・・・。
○ドラマ視聴率は本館サイトの該当コーナーから!
○TBS系「タイガー&ドラゴン」
第5話「厩火事」
虎児(長瀬智也)は出所したばかりのまるお(古田新太)とその妻・まりも(清水ミチコ)に出会った。まるおは過去に3回、酒が原因で傷害事件を起こしていた。その夜、寄席で2人の漫才を見て感動した虎児は、付き人になる。そんな中、漫才の舞台を控えていたまるおは、公演前に竜二(岡田准一)に勧められ、断っていた酒を飲んでしまう。
「はい! 気を取り直して、せ~の! (大勢で)タイガー&ドラゴ~ン!」
なんと男たちを虜にする女性バスガイド・メグミ(伊東美咲)が高座に上がり、寄席の客たちを引き連れた寄席の前にて全員で、こんな一言を叫んで始まりました。おぉ~、第3話や第4話のレビューで書いた「メグミ登場」の予想が、辰夫(尾美としのり)に続いてまた当たってしまったよ! この分だと・・・って予想すると“どーんどーん”当たりそう? 「ああ、今度は組長(笑福亭鶴瓶)が怖い・・・(落語「饅頭怖い」より組長召喚の念押し?)」。しかしメグミが高座に上がるとしても、まさか舞台裏の様子や外(裏原宿の竜二の店にも!)にまで出て“ガイド”して回るとは予想できなかったなあ。この設定、めちゃめちゃ上手いじゃないですか! この時点でグッ! まあ連れられた客たちは、どこへ行ってもメグミばっかり見たりケータイで写真を撮ったりしていたけどね(笑)。そういえば、寄席の前でケンカし合う中年夫婦が通り過ぎていったっけ・・・。といったところで今回の話。もう本当に、深くて深くて・・・。一連の流れでまとめるのが難しかったので、今回に限っては一風変わった形でレビューを進めていきたいと思います。かなり長文になるけど、できればじっくり読んでくださいね。私も今回ばかりは歌って言わせていただきます。♪俺の話を聞け~!(♪読め~ かな?)
○「落語解説」の項
今回のお題は「厩火事」。「うまやかじ」と読みます。この落語は、ろくに働かない酒好きの亭主と髪結いとして働く妻の物語。夫婦喧嘩した妻が「亭主の愛の本心を知りたい」と仲人を尋ねたところ、仲人は二つの話を聞かせます。「唐土(もろこし・現在の中国)でその昔、孔子の厩(馬小屋のこと)が火事になった時、孔子は大事な馬よりも家来の方を心配した」という心温まる故事と、「我が国でその昔、旦那が凝る瀬戸物を持った妻が階段から滑り落ちた時、旦那は妻よりも大事な瀬戸物の方を心配した」という呆れた話。そこで試しに、亭主の持っている大事な瀬戸物を割って、どっちを気にするか様子を見てやろうと計画します。そして作戦決行! さあ亭主はどうする? 結果は・・・妻の方を真っ先に心配したようです。ああ良かったね~、ありがタイガーだね~(笑)。ホッとした妻は、亭主にその理由を聞いてみたんです。「ユーはミーを心配してくれたのネー(何故英語?)」。それで亭主が、「当たり前じゃ~ん!(何故現代語?) お前がケガしたら、明日から遊んでて酒が飲めねえ~」って言うのがオチ。つまり、「妻が仕事できなきゃお金が入らず好きな酒さえ飲めないや」っていうことね。ちなみに、落語家がこの「厩火事」を演目として話すことは、老若男女の登場人物を演じるのもあって相当難しいそうです。「二つ目(落語家の位・前座の次)」になった小虎(虎児)としては、一つの挑戦とも言えるこのお題。彼の技量に期待したいところです。
そうそう、「厩火事」に見られる「試し話」って、「大岡裁き」の有名な逸話「本当の母親」に似てるなあと思いました。一人の小さな子供に、母親と名乗る二人の女。さてどちらが母親か? では試しに両側から引っ張らせてみよう! あっちへどっこい、こっちへどっこい。子供は痛くて声を上げたため、こっちの女は思わず手を離し、あっちの女は勝ち誇る。そこでお奉行様(大岡越前)が一言。「子供を思い遣って手を離したこっちの女が本当の母親だ。フォッフォッフォ!(やや誇張)」というお話です。「試し話」としては似ているけど、「厩火事」の話とはちょっと違う。しかし今回の話は、その落語をベースに「ちょっと違う要素」が盛り込まれていたと言えました。それは後々お伝えするとしましょう。
○「登場人物」の項
さて現代。関西出身の「上方まりもまるお」という夫婦漫才コンビがいました。酒好きのまるおは、以前その酒のせいで傷害事件を起こして刑務所に服役し、昨年の暮れにようやく出所してきたばかり。今は大好きな酒をキッパリと断ち、妻のまりもと東京の事務所で心機一転頑張る決心をし、現在に至っています。まるおは過去に3回もの逮捕歴があり、元ボクサーでケンカも強い男。1回目の逮捕の時は組長に保釈金を払ってもらったことがあり、その恩を忘れず今でも組長のいる事務所へ挨拶に伺ったりもします。また、二人の仲人はどん兵衛(西田敏行)と小百合(銀粉蝶)で、彼らの元へも挨拶に伺ったりします。ここで「厩火事」と対応付け。酒好きの亭主はまるお、髪結いの妻はまりも、相談を受ける仲人はどん兵衛と小百合、特に小百合となりますが、他にも相談に乗る人物がいるようです。とりあえず、設定はこんな感じです。
○「上方まりもまるおの夫婦漫才 in 寄席」の項
ただのしょうもない中年夫婦だと思っていた虎児は、その二人が寄席で「上方まりもまるお」として出ているのを見て「ん゛~?」とひたすら驚くばかり(笑)。ドリカムことDreams Come Trueの「Eyes to me」の出囃子(高座への登場音楽)に乗せて登場し、「浪速のドリカムこと、まりもー、まるお、ですー!」と言ってドツキ系夫婦漫才が始まります。金髪の長髪カツラをかぶるまりもと、でっかい蝶ネクタイを付けるまるお。この二人の漫才がもう面白くてたまらない! ドラマ内での演技とはいえ、古田新太さんと清水ミチコさんの息はピッタリで、完成度が高い! ごく自然に楽しめちゃいました。漫才さえ知らなかった虎児も、彼らとの初対面の悪印象を忘れて徐々に漫才そのものの魅力に惹き込まれ、「ばぁーはっはっはっ!」と大声で笑う始末。虎児が本気で笑う姿って、何か良いよね(笑)。ところで「漫才の内容」については、基本的に夫婦ならではの話でお互いをけなし合う「夫婦漫才」の超典型。まりもが変わらずボケまくり、まるおがドツキでツッコミを入れる形です。面白い掛け合いがいろいろあったけど、注目すべきは以下に挙げる二つのやりとりです。
(とりあえずツカミを一つ・・・)
まるお:「まあ~二人でね、これからも頑張っていかなあかんな~って
言うてるんですけどね」
まりも:「あんたあんまり頑張らんでもよろしいで?」
まるお:「なんでやんな~?」
まりも:「あんたが死んだら」
まるお:「わたしが死んだら」
まりも:「保険金ががっぽう入るさかいに」
まるお:「いらんこと言うなお前はぁ(頭をドツキ) 立てんかいな亭主をぉ(頭をドツキ)」
(浮気話でケンカになる二人・・・)
まるお:「今日という今日はもう許さへんで。ワレお前浮気しとったんかい?」
まりも:「してへんわ!」
まるお:「ウソや!」
まりも:「ウソやないわ!」
まるお:「ウソや!」
まりも:「ホンマや!」
まるお:「ウソやっ!」
まりも:「ホンマやっ!」
まるお:「ウソやっっ!」
まりも:「ウソやっっ!」
まるお:「ほなよろしいがな~ってええことあるかい!(張り倒す)」
(立ち上がったまりもはたまらずまるおに反撃開始)
まりも:「あんたー!(頭をドツキ) いい加減にしいや!(蝶ネクタイをパチン)」
まるお:「うぁ~ん、堪忍や~、堪忍・堪忍・かんニンニンや~(忍者のマネ)」
まりも:「わたしがウソついてる時はなー」
まるお:「この人がウソついてる時はー」
まりも:「顔に出ます!(カツラを上に持ち上げて鼻を膨らませ口を尖らせる顔)」
まるお:「思いっきり出とるやないかい!(再び頭を激しくドツキ)」
まりも・まるお「♪まりもとまるおは~おもろい夫婦です
どうもありがとうございました~」
パチパチパチ~ッ! テレビの前でだけど、本当に楽しませていただきました~! しかし、この二つのありきたりなやりとりが、最後で重要なものになってくるのでありまして・・・。
○「虎児・裏プロデュース」の項
落語以外の「お笑い」に出会い、とても影響を受けてしまった虎児は、まるおとまりもを賞賛して全面的にバックアップ。まるおを連れて裏原宿にある竜二の店「ドラゴンソーダ」へ出向き、竜二に二人のカッコ良い舞台衣装を発注。竜二はまるおと顔見知りであり(どん兵衛たち両親が仲人なのもあって付き合いが長い)、虎児からは笑いの良さを強く語られたため、快く承諾しました。ただし、「ダセーもん作ったらお前、ドツキ回すぞ!」という虎児の脅しあり(笑)。また“ジャンプ亭ジャンプ”こと淡島ゆきお(荒川良々)には、「CLUB寄席」なるイベントに出演させてもらうよう、脅しを入れて依頼しました。「虎児プレゼンツ&裏プロデュース・ドツキ系夫婦漫才」の準備はバッチリ!
○「まるお・波乱万丈の人生」の項
ある時、辰夫の店で虎児はまるおからその生い立ちを聞きました・・・。実家は兵庫県の姫路。父親が借金を抱えて逃げ回っていたため、母親が水商売をして稼ぎ、そしてまるおを育てた。いつも一人にさせることを悪く思いながら、母親は「かんニンニン!」と言って忍者の構え。まるおが漫才で見せるギャグは、母親譲りのものだったんですね。そんな母親を楽させようと、まるおはボクシングを始めた。しかしデビュー戦が決まった日、母親は自宅アパートで首を吊り自殺。その10日後、今度は父親が海に車ごと突っ込んで後追い自殺。両親を一度に失ったまるおは、中卒でキャバレー等のボウヤになり、18歳の時にまりもと出会い、流れ着いた大阪で漫才を始めた、ということでした。序盤から「ドツキ回すぞっ!」等と怒鳴っていたまるおだったけど、この時は真面目な顔をして静かに語りました。その話を聞いた虎児は泣きまくり! 何故でしょう? 「だって・・・、途中まで俺と一緒で、後半まぎゃ、真逆なんだも~ん!」だそうです。偶然なのか、途中「真逆」というセリフを噛んだ形になったけど、そのせいで“逆に”虎児のセリフが光ったような気がしました。「なんだも~ん!」という口調も、話を聞いているうちに一時自分の辛い子供時代を思い出したかのように思えて、可愛かったなあ。そばで話を聞いていた辰夫も、「関東と関西の文化の違いじゃねぇか~?」と涙ながらに語りました。まるおをますます気に入ってしまった虎児は、「さあ一杯(おっ、酒を許すか?)・・・蕎麦湯飲め(ドテッ)」。まるおも一応飲んでは見るけど、「ウェ~」と吐き出して悲しい顔をしていましたとさ(笑)。
○「真打ち・林屋亭どん兵衛の噺『厩火事』 in 寄席」の項
寄席の高座では、どん兵衛が「厩火事」を披露。内容は既に紹介した通りだけど、良かったのは「仲人の二つの話」の再現シーン! 「厩の話」では、「孔子のいえ」という札が立てられた家(これ笑う~)から家来たちが走ってくるんだけど、それは虎児・竜二・銀次郎(塚本高史)・チビT(桐谷健太)の4人。孔子に扮するまるおに厩の火事のことで謝っていたけど、皆カタコトの似非中国語を使てたアルヨ(笑)。意外にも眉や目がキリッとしてたチビTが一番中国人ぽかたアル・・・。「瀬戸物の話」では、瀬戸物好きの旦那がどん太(阿部サダヲ)で、妻がどん太の妻・鶴子(猫背椿)。それで妻が階段から滑り降りると、旦那は「瀬戸物を壊しゃしないか、鉢を壊しゃしないか」と落語通り36回言うんだけど、阿部さんが息継ぎもせず言いまくる姿を見て爆笑! 単なる一シーンだけど、ものすごい熱演ぶりでした・・・。ここでもう一つ良かったのは、落語の「亭主の妻が仲人を尋ねる」について、現在の話が入ってきたこと。まりもが病院で小百合とバッタリ出会い、小百合と同じで「定期検診だった」と話します。その後喫茶店「よしこ」でママ(松本じゅん)もいる中、まりもは小百合に「亭主の愛の本心を知りたい」と尋ねるんだけど、小百合は落語のようには助言しません。では誰が? まあ大体予想はつきますけどね。ここで再び高座のどん兵衛の話だけど、仲人の「試しに亭主の瀬戸物を割る」という計画に対して、不安になった妻が「先に亭主へ、皿を割ったら必ず体を心配するよう言ってくれ」と頼んで、仲人が「それじゃダメなんだよ~」と言う話で観客をドッと笑わせます。実はこの「根回し」の話が、後になって生きてくるんですね・・・。
○「アクシデント発生」の項
「店で酒を飲まぬよう見張っておけ」と虎児から頼まれた辰夫は、どん兵衛の落語見たさにいつの間にか店を抜け出して寄席で鑑賞。げげっ! まるおは? なんと、竜二と一緒にいました。まるおが酒を断っているのを知らない竜二は、「昔は楽屋でも飲んでたじゃないですか!」と言いながらビールをコップに注いで差し出すと、まるおはそれまでじっと我慢していたのに急にグイッと一杯。「ふわぁ~~~!」だって(笑・・・笑えないけど)。そこからは焼酎に切り替えて酒を丸飲み。虎児たちは慌てて店に戻ったけど時既に遅し。今度は半蔵(半海一晃)のおでんの屋台にあった酒をコップに注いで一気飲み。「エイドリアーンッ!」と大声で叫ぶと、まるおは浅草の町を全速力で走り出しました。出た! “オジー@木更津キャッツアイ”モード炸裂だよ~! それで終わればまだ、まだ良かったものの・・・。寄席での漫才披露を前に、その寄席の近所で若者たちに因縁を付けられて乱闘騒ぎに! しかしまるおは元ボクサーだから、何人いようとも自慢の腕で打ち負かすことができたんだけど、そのせいで警察に連行されてしまいました・・・。いったいどうなる?
○「虎児の目覚め in まるおとまりもの家」の項
まるおが連行されるのを見て倒れたまりもを、どん兵衛に頼まれた虎児が看病。病人を冷やせば良いのか温めれば良いのか分からず、「とりあえず常温で良いかな?」と聞く虎児のセリフが好きでした。虎児によれば、竜二は帰されまるおは拘束されたままとのこと。その竜二はどん兵衛により、まるおが刑務所に入っていたことや酒を断っていたことを今になってようやく知りました。そして「自分は何も悪くない」と言う竜二を、どん兵衛は親として一芝居演じて助けてやったんですね。自分のしたことを後悔する竜二・・・。ところでまりもは、「今度こそまるおに愛想が尽きた」と話すんだけど、虎児は以前まるおと話したことを交えて「彼は本来人が良い」という話をしました。それでもまりもは態度を変えない様子。そんな中、まりもは「厩火事」の話に感銘を受けたと話すんだけど、同時に「まるおには酒以外何も無い」とも。そこで虎児が「いや、あるぞ。酒より大事にしてるもの。」と一言。まりもはすかさず「何?」と聞くと、虎児は静かに答えました。「漫才」。さあ~お待たせしました!(読んでくれた方、感謝!) 虎児、いや小虎の、「現代版『厩火事』」が始まりますよ~!
○「二つ目・林屋亭小虎の噺『厩火事 feat.まるおとまりも』 in 寄席」の項
落語「厩火事」を披露するにあたって、「DV(ドメスティック・バイオレンス:家庭内暴力)」についてどん兵衛が「DV(弟子・バイオレンス:弟子とは凶暴な小虎のこと)」と言ったのに対して、小虎は「家庭外暴力」と称して「20年間舞台の上で嫁をドツいて生きてきたバカな男。ドツキバカ、略してDV(ドツキ・バカ)」と言いました。よっ! 二つ目、のっけから上手いね~!
さて現代版「厩火事」。本来仲人に「亭主の愛の本心を知りたい」と尋ねるところだけど、まりもが小百合の次に尋ねたのは虎児と竜二でした!(予想できましたか?) それで会話しているうちに、まりもの口からつい出た「末期ガン」で行くことに決まりました。ん? まりもは青ざめた表情? それとも趣旨が変わったようで困った表情? とにかくまるおに末期ガンだと伝えて、それでもドツいてくるようなら「暴力亭主」、そうでなければ「愛情亭主」というわけ。意見がまとまったところで作戦決行・・・でもちょっと待って? ここで出ました。「タイガータイガーじれっタイガー!(&舌なめずり)」。いつもより1.5倍の勢いがあったけど、客席はシーンと静まり返りました(笑)。虎児的には、これでいいのだ! 「よーし・・・」って言ってたし?
組長に保釈金を払ってもらって、まるおは一日だけシャバへ。車で銀次郎(運転席)と竜二(助手席)がまるお(後部座席)を乗せて走っていたところ、なんとまるおはまりもに合わせる顔が無いと言って大阪へ帰ると言い出し、「東京駅へ行け」と命令しました。たまらず竜二は、まるおへ「まりもは末期ガン」と告白。作戦を知らない銀次郎はマジ驚き。そしてまるおは「戻れ! ドツキ回すぞ!」と言ったのでした! あの場合仕方が無かったとしても、楽屋以外で本人へ話すのは本来作戦外。でもそれが、どん兵衛の「厩火事」で「根回し」として話されたことにつながったのでした。また、「落語解説」の項で書いた「ちょっと違う要素」にもつながります。この時点で「今回はちょっと違う『厩火事』」になるわけですね。ところで、竜二が「ガン」や「半年」という言葉を口にした時、オジーに続いてまたもや“ぶっさん@木更津キャッツアイ(余命半年というキャラ設定)”を思い出してしまいました。きっと竜二を演じる岡田さんも、「木更津の設定みたいだな」なんて思ったはず?
場所は「CLUB寄席」の楽屋。なんとまりもは、計画した内容を逆にしてほしいと虎児に頼みました! つまり、ガンと知ってもドツいてくるようなら「愛情亭主」、そうでなければ「情けない亭主」というわけ。後者の場合は、きれいさっぱり別れるとまで決心しました。そして竜二たちが到着し、虎児と隠れて途中経過の緊急打合せ。虎児が「逆になった」と話せば、竜二は「もう言った」と話しました。竜二が言わなければいつも通りにドツいただろうに・・・時既に遅し。そこへ竜二の“ダセー”舞台衣装に着替えたまりおが登場し、まりおが「君、ガンなんか?」と話せば、まりもは黙ったまま「うん」と頷きました。さあここから、究極のドツキ系夫婦漫才が始まります!
○「上方まりもまるおの夫婦漫才 in CLUB寄席(by 小虎の噺)」の項
ジャンプ亭ジャンプの紹介で、「Eyes to me」の出囃子の中登場する「上方まりもまるお」。しかし! まるおはツカミから泣きっ放しで、まりもが何を言っても何回ボケてもドツけない状態。最悪です・・・。それを客席で見ていた「タイガー(虎児)&シルバー(銀次郎)&ドラゴン(竜二)」の並び順でのやりとりが面白かったので、ちょっとだけ差し込みますよ。
(舞台を見るタイガー&シルバー&ドラゴン)
虎児:「(腕を組んで)離婚だな」
銀次郎:「(計画を知らぬまま)えっ?」
虎児:「(腕を組んだまま)いやウソなんだよ、奥さんが旦那試してんだよ」
銀次郎:「(虎児に)ガンじゃねぇんすか? (竜二に)ガンじゃねぇのかよ?」
竜二:「(左手だけ腰に手を当てて)やっぱり背中に銀色のライオンが・・・」
虎児:「(竜二を見て)うるっせぇお前は黙ってろよっ!」
数十秒のシーンだけど、大爆笑! 計画を知らなかった銀次郎が、知る二人各々に異なる口調で質問するのもツボだったけど、竜二が夫婦や漫才よりも舞台衣装の方を気にして、虎児がすかさずツッコミを入れたのがかなり笑えました~。ゴホン、さてと・・・ここからしばらくは、笑い無しです。
寄席でも披露した「ツカミ」に入ります。
(とりあえずツカミを一つ・・・)
まるお:「まあ~二人でね、これからも頑張っていかなあかんな~って
言うてるんですけどね」
まりも:「あんたあんまり頑張らんでもよろしいで?」
まるお:「なんでやんな~?(泣きながら)なんでやねん・・・」
まりも:「あんたが死んだら」
まるお:「わたしが死んだら・・・」
まりも:「保険金ががっぽうごっそう入るさかいに」
まるお:「いらんこと言うなお前はぁ(頭をドツキ) 立てんかいな亭主をぉ(頭をドツキ)
(泣きながら)ほんまやな・・・、わしが死んで・・・、
保険金でまりちゃん楽させてやりたいなあ・・・」
まりも(追加):「・・・」
もう夫婦漫才どころじゃあありません。たまらず、寄席でも披露した「シメ」に入ります。
(浮気話でケンカウソ話でとんでもないことになる二人・・・)
まるお:「今日という今日はもう許さへんで。ワレお前浮気しとったんかい?」
まりも:「してへんわ!」
まるお:「ウソや!」
まりも:「ウソやないわ!」
まるお:「ウソや!」
まりも:「ホンマや!」
まるお:「ウソやっ!」
まりも:「ホンマやっ!」
まるお:「ウソやっっ!」
まりも:「ウソやっっ!」
まるお:「ほなよろしいがな~ってええことあるかい!(張り倒す)」
(立ち上がった困り果てたまりもはたまらずまるおに反撃攻撃開始)
まりも:「あんたー!(頭をドツキ) いい加減にしいや!(蝶ネクタイをパチン)」
まるお:「うぁ~ん、堪忍や~、堪忍・堪忍・かんニンニンや~(忍者のマネ)・・・。」
(以下、全てセリフ移動&追加)
まりも:「なんやさっきから! お客さんに失礼やろ!」
(ここでまりもが、客に向かって末期ガンの「ドッキリ」を仕掛けたと告白。)
まるお:「ちょっと待てっ! なんやそれ?
ほなお前、死ぬ言うのはウソなんや?」
まりも:「ウソや!」
まるお:「ウソなんやっ?」
まりも:「ウソやっ!」
まるお:「ウソなんやっ?」
まりも:「ホンマやっ!」
まるお:「どっちじゃあーっ!」 ←[本当に問いただしたかったのでしょうね]
まりも:「わたしがアホかー! うちがウソついと、 ←[ここで詰まります]
うちがウソついとる時はなー」
まるお:「この人がウソついてる時はー・・・。」 ←[向かい合う形で数秒の間あり]
まりも:「顔に出ます!(カツラを上に持ち上げて鼻を膨らませ口を尖らせる顔)」
まるお:「思いっきり出とるやないかい!(再び頭を激しくドツキ)
やぁっぱりウソやったんかーっ!(激しくドロップキック)」
(虎児&竜二&銀次郎を始め、客たちが大爆笑!)
まるお:「こりゃあワレー! よーも亭主に恥かかせやがったなぁーっ!(頭をドツキ)」
まりも:「(笑いながら)なんや! アンタみたいなろくでなしでも、
女房死んだら悲しいんか!」
まるお:「当ったり前じゃあボケッ! お前が死んだらなぁ?」
小虎さん小虎さん、オチの方お願いしま~す。そちらにマイクをお返ししま~す!
○「再び、二つ目・林屋亭小虎の噺『厩火事 feat.まるおとまりも』 in 寄席」の項
小虎:「明日っから・・・遊んでて酒が飲めへんやんけ」
ということで、最後は「厩火事」のオチ通りの言葉で終わりました。客席からは拍手喝采! そして高座の小虎は、客席の正面後ろの方へ拍手を送りました。そこにはまるおとまりもが! まりもが立ち上がって、伏せているまるおを立たせると、そのまるおはお約束でまりおをドツいて一笑い。そのまままりもへズームアップ。しかし! その涙ながらの笑顔が、「ボンッ」というカメラのシャッター音と共にモノクロになり、遺影に変わりました。まりもは本当にガンで、この舞台を最後に亡くなってしまったんですね・・・。
戒名「浪蓮院妙真理大姉」。遺影の前で、まるおは涙を出さず唇を噛み締めるだけ。どん兵衛他関係者が見守る中、小百合が「安心して。あんたが出てくるまで、お線香は絶やしませんからね。」と声を掛けました。まるおは鈴(りん)を一つ鳴らし、手を合わせるかと思いきや、忍者の構えをして「かんニンニン」と呟きました。「まさか本当にガンだったとはなあ・・・」とは、喫茶店「よしこ」でのどん兵衛の言葉。一緒にいた虎児へ、号泣しながら最後に舞台へ上がらせてくれたことを感謝していました。そうなんですよね。計画の一環となったにしろ、「虎児・裏プロデュース」があってこそ、アクシデント後に別れたままにならず、最後に舞台で分かり合えたんですよね。夫婦として、芸人として、最高の舞台で。そのまま恒例の「落語授業料納め&借金返済」になるんだけど、今回はどん兵衛の方から授業料を拒否し、また借金返済は立て替えてもらうよう頼みました。いつもなら虎児が血相を変えて怒るところ。しかし虎児は、「分かったよ。今回だけだぞ。」と言ったのでした! まさかの言葉にゾクゾクっとしましたね。このやりとりも良かったです! その頃刑務所では、看守(緋田康人)が「終わったら食器外に出せ!」と言うと、服役したまるおはお椀を胸に当てて「井上和香!」とギャグ一発。でも無視されてお椀も奪われ「ちょーもーちゃんとツッコめやコラァ~!」とツッコミ。そして看守が「勘弁してくださいよ、毎日毎日!」と言い捨てて出て行かれた後に、まるおは再び叫びました。「君とはもうやっとれませんわ~!」。
○「ストーリーのまとめ with ウンチク」の項
素晴らしい出来でした。「スペシャルを超えたか?」という勢いでした。「厩火事」を、笑いと涙の感動巨編にしてしまうとは・・・。脚本のクドカン(宮藤官九郎)、すご過ぎますっ! 「上方まりもまるお」の夫婦漫才は2回見られたわけだけど、印象は全く違うものになりました。BGMは一切無しで、二人だけの熱演。私的には、2回目の漫才をCLUB寄席でやる設定にして良かったと思います。その理由は、暗い中スポットライトが当てられた中での「絵」がものすごく良かったから。それに、そのせいで顔に出る細かい表情がしっかりと伝わってきたから。照明が多く全体的に明るい寄席では、泣きの漫才も明るく見えて、これほどまでの感動には至らなかったでしょう。芸人の最期としては寄席の方が相応しいかもしれないけど、今回に関してはCLUB寄席でのイベント会場で正解だったと思っています。
まるお役の古田新太(ふるたあらた)さんと言えば、「劇団☆新感線」の看板役者。私は昔、ニッポン放送「古田新太のオールナイトニッポン」のリスナーで、そこで彼を良く知りました。奥さんは西端弥生さん。以前フジテレビ系「ダウンタウンのごっつええ感じ」にも出演していて、皆からは「ねーやん」と呼ばれていました。笑い方が豪快で特徴のある方です。ちなみに、お二人の子供さんの名前は「あろえ」だそうです。実は古田さんは兵庫県出身で、西端さんは大阪出身。つまり、古田さんはまるおの設定と同じで、西端さんは出身地不明でも関西出身と思われるまりもの設定と同じ。「流れ着いた大阪」という点では、大阪出身という要素でリンクしています。それゆえ、実生活でも関西系の夫婦漫才(ドツキ系?)みたいに振舞っているとしたら、今回のまるお役はごく自然に演じられたのかもしれませんね。
まりも役の清水ミチコ(しみずみちこ)さんと言えば、ご存知の通りレパートリーが豊富な顔マネ&モノマネタレント。私は昔、フジテレビ系「夢で逢えたら」の大ファンで、ダウンタウン・ウッチャンナンチャン・野沢直子さんたちと一緒になって繰り出すコントで、毎週土曜夜はかなり笑わせていただいたものです。愛称はこれまたご存知の通り「みっちゃん」ですね。清水さんの出身は岐阜県高山市で、同じ東海圏出身者として応援はしていました。清水さんは舞台ではピアノ(または鍵盤楽器)がパートナーであることが多いけど、そのマネ芸は・・・もう語る必要はないですね。毎回奇抜なネタで笑わせてくれます。
さて今回、この二人が夫婦漫才の芸人としてコンビを組みました。その演技は、もう本当に素晴らしかった! とにかく息がピッタリで、そのままコンビを組んでもいけるくらい? 見ものだったのは、2回目のCLUB寄席での名演技。暗い舞台なのもあって、特に古田さんなんかは得意中の得意である演劇で演じているかのようでしたね。しかし清水さんも負け劣ってはおらず、そんな古田さんにしっかり付いていっていました。冷静に考えると、「ドラマの中で漫才を演劇のように披露していた」ということになるんですね。それってすごいことだと思いませんか?
公式サイトにて、第5話「厩火事」における磯山晶P(プロデューサー)のコメントが5/13付で掲載されていました。この落語をネタにすることで考えた結果、「古田さんと誰かの夫婦漫才の話」という案がまず浮かんだそうです。古田さんは、磯山Pやクドカンの作品にゆかりのある方なので問題無し。しかし、その奥さんのキャスティングで非常に悩んだそうです。そこで、「お笑いタレント」と「お笑いで舞台経験者」で絞り込んだ結果、清水ミチコさんに白羽の矢が立ったそうです。こうして、忘れ難い「にわか夫婦漫才芸人」が誕生したんですね。その磯山Pも、最後の漫才シーンをロケのモニターで見た時は泣いてしまったとのこと。それは、多くの視聴者も同じでした。毎度ながら、スタッフの皆さん、お疲れさまでした!
その他、夫婦漫才に関係しないところも充分に楽しめました。竜二とメグミが微妙な距離で居続ける中、青山にある竜二のアパートが登場しましたね。実際の“自宅”は、チビTの部屋の押し入れだったけど(笑)。また、どん兵衛がケータイを買って「め、メ、メール?」と言ったり、弟子に「アドレスは?」と聞かれて「台東区浅草・・・」と自宅の住所を素で言ったりするシーンも笑った! そのどん兵衛が虎児に「厩火事」披露の連絡を入れた時、打ち込みに苦労したであろう(作ったスタッフも苦労した?)、メチャクチャかつ日本語読みだけはできる文章も笑った! 後はなんだろう、「罰金(バッキン)ガム宮殿にブチ込むぞコラ~!」とか「俺が好きなものは皆好きなんじゃねえかなと思って」とか「(まるおについてまりもへ)あの人が見捨てられるってことは俺も見捨てられるようなもんで」とか「手強いね~」等の虎児のセリフは全部好き。うれしいことと辛いことが交互に訪れて表情豊かだった竜二の姿も好き。「はっかったっのっしおっ!」等のどん太のギャグも実は好き。リサ(蒼井優)のキックや睨み顔も何か好き。どん兵衛の弟子たちのアシストも懸命で好き。他にもたくさんあるけど、最後のどん兵衛の言葉も全部好き。とにかく、全体通して、本当に良かったっ! この気持ち、皆さんにも伝わったでしょうか?
○「レビューのまとめ」の項
ふぅ~~~! 序盤で書いた通り、かなりの長文になってしまいました。今回取り入れた「一風変わった形のレビュー」は、項目毎に内容がまとまってて逆に読み易いかも? ここまで全て読んでくれた方、ありがとうございました。私としても、かなり思い入れの深い回になりました。またこの記事は、ドラマレビュー系記事の中で、いや、これまでに書いた記事の中で、最も長文になりました。これだけ書いたというのに、実はまだまだ書き足らないことが残っているんだけど、あえてここで締めたいと思います。「私が書き続けたらなぁ、明日っから・・・疲れてて他の記事が書けへんやんけ」。
●「タイガー&ドラゴン」・私的な満足度ランキング
第1位: 「厩火事」の回[第5話]
(笑いと涙の夫婦漫才劇。全編に渡って、完璧に近い出来でした!)
第2位: 「三枚起請」の回[スペシャル]
(約2時間もあるこのストーリーは、作り込みもすごくて面白かったです。)
第3位: 「饅頭怖い」の回[第2話]
(どん太が面白過ぎ! 元も有名な落語だし、知っている分かなり楽しめました。)
第4位: 「茶の湯」の回[第3話]
(新登場のキャラが良い味を出していました。)
第5位: 「権助提灯」の回[第4話]
(落語はベタだけど、現代ストーリーの立場逆転には驚かされました。)
第6位: 「芝浜」の回[第1話]
(これが「クドカン流」と言わしめた、スペシャルと連続ドラマの掛け橋的存在です。)
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・「タイガー&ドラゴン」オリジナル・サウンドトラック
オープニングテーマ「タイガー&ドラゴン」(クレイジーケンバンド)
DVD「タイガー&ドラゴン」[「三枚起請」 の回]
シナリオ本「タイガー&ドラゴン」[「三枚起請」 の回](宮藤官九郎)
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